2007年2月26日月曜日

自然の造形美

小笠原諸島では、父島の南西端から南島にかけて、そして母島の石門と呼ばれる地域にのみ、大昔に発達したサンゴにより形成された石灰岩からなるカルスト地形が存在する。

石灰岩は、二酸化炭素を含んだ弱酸性の雨や地表・地下水により浸食を受けて独特の形状を生み出す。ここ父島のジニービーチ近辺では、針山のように尖った岩、まん丸の穴が開いているような面白い形の岩、そんな岩々に囲まれたすり鉢状の砂地を見ることができる。
この砂地の一端に、なぜかオガサワラビロウ(小笠原固有のシュロの木)だけが元気にニョキニョキ生えていた。

カタツムリの王国

小笠原の世界自然遺産登録に向けた動きを知っている人でも、小笠原が何を売りにして世界遺産に登録しようとしているか知っている人は少ないように思う。

UNESCOによる世界自然遺産登録の基準には、
(ⅶ)景観:最上級の自然現象、類い希な自然美
(ⅷ)地形・地質:地球の歴史の主要な段階の顕著な見本
(ⅸ)生態系:進行中の生態・生物学的過程の顕著な見本
(ⅹ)生物多様性:生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含
の4つがある。

小笠原は、このうち(ⅷ)、(ⅸ)、(ⅹ)の基準に該当するとして、登録推薦を目指している。具体的に何かというと、(ⅷ)については、小笠原諸島が形成された過程、そして、世界中で、ここでしか地上で目に触れて観察することのできない特殊な岩石の存在。(ⅸ)、(ⅹ)については、陸産貝類、すなわちカタツムリの仲間の種分化の過程と種多様性が貴重であるとされている。

(ⅸ)については、例えばガラパゴス諸島では、チャールズ・ダーウィンが「進化論」の着想を得たといわれるダーウィンフィンチが該当する。

これに比べると、小笠原はカタツムリの仲間とは、なんと地味な・・・と思われるかもしれない。実際に現場で見てみると、本当に地味。小さいものは殻の直径が5ミリに満たない小さなものからある。けれど、本当にいろいろな色や形の殻をもったカタツムリがいる。小笠原産のカタツムリの仲間はなんと95種もあり、その93%が、世界中で小笠原にしかいない固有種。

そして、森に入るとそんなカタツムリの仲間達がそこらじゅうにいる。海岸に行くと、大昔に死んだカタツムリの仲間の殻が地層に埋もれて化石になり、その後地層が波や風雨による浸食を受けて再び地上に出てきたものがゴロゴロ転がっている。カタツムリの殻だらけの海岸なんて、なんだか異様な感じがする。
あんなに動きがノロいカタツムリの仲間が、化石になるような時代から現代に至るまで繁栄し続けるとは、それだけ天敵や競合相手のいない、のんびりとした島だということ。この、大陸と比べると生物種数の極めて少ない、極めてシンプルな生態系こそが小笠原の独自性なんだと思えてくる。

そして生態系がシンプルであればあるほど、人間の手により突如として持ち込まれる外来種に対して在来の生物は抵抗力を持たず、その影響は計り知れない。


戦争の痕跡

父島近辺では、至る所で戦争の痕跡を見ることができる。
最近「硫黄島からの手紙」で話題になった硫黄島ほどではないが、父島も旧日本軍の太平洋戦線の重要拠点で、たくさんの方が亡くなった場所。

父島の北隣に位置する兄島、ここにも戦争の痕跡は残っていた。兄島は現在無人島で、植物や動物の調査に入る研究者以外はほとんど立ち入らない場所。こんな場所に、旧日本陸軍の標識や、ここまで電気を引くために使われたと思われる電柱を発見した。

そして、錆びてボロボロになった機関銃の弾丸も。

2007年2月18日日曜日

小笠原初泳ぎ

今日、小笠原に来て初めて泳いだ。まだ2月中旬とはいっても小笠原は亜熱帯、昼間は20度を越える。暑いなぁ、と思って泳いだら、海の水はまだ冷たかった。

防水のデジカメを持ち出して、浅い海底にポコポコと突き出しているサンゴの撮影を試みた。
これがなかなか難しい。デジカメの液晶ディスプレイは大きめだけど、反射してよく見えないから何を撮っているのかよくわからない。さらに、素潜りだとどうしても体が浮いてしまい、カメラ対象に向けて静止することもできない。魚みたいな動く対象なんて撮れたものじゃない・・・。
これは訓練が必要だ。

肉眼では見えない風景

カメラは、肉眼では見えない風景を捉えることができる。

銀塩カメラは、レンズを通して入ってくる外の光をフィルムや感光板に焼き付けて映像を固定する。デジカメも構造はだいたい一緒、ただしフィルムや感光板でなく、CCD素子により光を捉え、デジタルデータとして記録する。要するに、外部から光が入ってこないと映像ができない。

特に夜間、光がとても弱いとき、昼間のように一瞬のシャッタースピードでは、入ってくる光が少なすぎて何も写らないことがある。そこで、シャッターを数秒間から数分間開きっぱなしにする、長時間露光をすると、シャッターを開いている長時間の光の蓄積として、映像ができ上がる。シャッターが開いている間、撮影の対象、すなわち光を発しているもの、光を反射しているものが動くと、その軌跡が画面に記録される。対象が動かない場合にも、例えば撮影対象の全体はとても暗いのに、ほの明るい対象がわずかにでも存在する場合、明るい部分の光が蓄積されて顕著に画面に現れる。このようにして、肉眼では見えないような風景が、カメラで撮影した画面上に現れる。

そんなふうにしてできたのが下の写真。夜の海は神秘的に写る。


いつも自分に言いきかせていること

これはいい経験になる、無駄なことなんて何もない。

この間、さんまのからくりテレビで、「いつも自分に言いきかせていること」というお題のトークがあった。それを見ながら、自分の場合はどうだろう、と考えて浮かんできたのがこの言葉。

過去を回想して・・・。
マラウイにいるとき、電気も水道もない生活をしたとき。その家の中のどこからともなく、前足の端から後ろ足の端まで14cmある(メジャーを使って測った)、タランチュラのような毛むくじゃらのクモが何匹も湧いて出てきたのを見たとき。サソリに刺されたとき。マラリアにかかったとき・・・。

小笠原は孤島とはいっても東京は東京、生活に困ることはなく、タランチュラもサソリもいないし、マラリアもない。だけど、数年間内地で暮らしてきて、ブロードバンドの通信環境、宅急便を夕方に出せば翌朝10時に着くような超特急の物流、毎朝来る新聞。そんなものに慣れてしまっていたから、いざそれがなくなってみると、大変なことに感じてしまう。でもそれもいい経験、無駄なことなんて何もない。便利になりすぎてしまうと、便利なことがどれだけ有難いことかわからなくなってしまうから。
こんな島の生活も、数週間経てば慣れるだろう、そして今大変に思うことも大変に感じなくなるんだろう。

2007年2月14日水曜日

情報と物欲の狭間で

テレビのCMを見ていた。
マクドナルドのメガマック、ほっかほっか亭の塩天丼・・・。

普段は何とも思わないCMなのに、いざマックもほっかほっか亭もない小笠原に来てみると、無性に欲しくなる。

そんな感情を持った瞬間、情報もモノも何もないマラウイでの2年間の生活、そして、とあるNGOの調査に参加して訪れたネパールの山奥の村で、村随一のお金持ちの家のテレビの前に大勢の子供たちが集う光景を思い出した。



マラウイのケープ・マクレア。国立公園の中の僻地にあり、当時電気の来ていなかったこの場所ではテレビを見ることができなかった。情報源は、この地域では2、3チャンネルしかなく、1年近くも同じヒットソングを流し続けるラジオと村人の間のクチコミのみ。

ネパールのナルチャン村。標高2000m近く、すぐ近くに7000m級の山々が連なるアンナプルナ山塊を望む山奥にあるこの村へは、自動車が入れる最寄りの街から渓谷沿いの険しい道を歩くこと丸一日。だけど電気はあり、お金さえあればテレビとアンテナを買ってテレビを見ることができる。テレビからは、最近急成長を遂げている隣国インドの映画や音楽番組が流れている。

このふたつの村の生活水準を客観的に比較してみると、慢性的に食糧不足、エイズやコレラといった感染症が蔓延しているケープ・マクレアよりも、高い山々に囲まれ、水が豊富で穏やかな気候のために、食うに困らないだけの農産物がとれるナルチャン村のほうが、はるかに生活水準が高い。これはあくまで外部の者として、客観的に見たときの感覚。

一方で、実際に住んでいる人々の感覚はどうだろう?

小笠原・・・。日本だから、いくらモノがないとはいえ、どちらよりも物資ははるかに豊かで、生活に困ることはないけれど、状況はナルチャン村に近い。知らなければ、ないモノを欲しくなることはないのだと思う。だけど、知っているのに、そのモノがないと欲しくなってしまう。ないモノねだり、人間の物欲の本質かもしれない。



いざ、そんな状況に置かれてみて、ケープ・マクレアとナルチャン村の住人の感覚を考えてみると、客観的な目とは裏腹に、情報があるがために満たされない物欲を持ってしまうナルチャン村の住人ほうが、情報のないケープ・マクレアの住人よりも、「貧しい」という感覚を強く持っているのかもしれない、と思えてくる。

2007年2月12日月曜日

父島一周

50ccのスクーターを借りて、丸一日かけて父島を一周してきた・・・。とは言っても、父島を周回する道路は父島の南東側半分を残し、父島の海岸線の約半分の半径でちっちゃく回っているから、残り南東半分は歩いていくしかない。小さな島だから、周回道路が至らない南東半分も歩いて回って、一日あれば余裕で回れると思っていた。しかし、実際はそんなに甘くはなかった。父島南端部は特に地形が険しく、標高100m近くありそうな丘に登っては海面近くまで降りての繰り返し、思っていたよりも時間がかかり、南端の南崎まで行くことなく断念した。南崎はまた次の機会ということに・・・。
中途半端に終わってしまったが、途中で思わぬ収穫が。「森の喫茶店」という、読んで字のごとく、客が座る場所が森の中、屋根も壁もないオープンエアの喫茶店に立ち寄ったときに、そこのオーナーが趣味でやっている畑でとれた野菜を分けてくれた。ツルムラサキ、だったかな。家に帰って早速おひたしにして食べたら、ほの甘くほろ苦い微妙な味がおいしかった。

父島の生活事情

父島の生活事情(その1:荷物の送付)

東京から送った荷物がこんなことに・・・。


揺れる船の船倉に詰められて送られてくるから、荷物の損壊は補償できない、とは聞いていた。でも本当にこんなになるとは・・・。中身には影響なかったから問題ないのだが。届けてくれた人が荷物の傷にはひとことも触れず、あっけらかんと去っていったところをみると、この島ではこれくらいの荷物の損傷は日常茶飯事なのだろう。

前に、アフリカのマラウイに青年海外協力隊で行ったとき、別送の荷物がこんなふうになっていたことを思い出して、なんだか懐かしかった。中身が抜かれることがないだけ、ここはマシ。

父島の生活事情(その2:小笠原価格)

物価が高い、とにかく高い。ガソリンは1リットル240円(内地※の約2倍)、牛乳の値段はこんな具合。僻地に来たからって生活費が安くなるとは限らない。食品を含めほとんど全ての生活物資が、約1000キロを隔てた内地から船で運ばれてくるから、仕方がない。

※小笠原では、北海道、本州、四国、九州等本土のことを内地と呼ぶ。

小笠原への道すがら

小笠原諸島(父島)へは、唯一の交通手段である「おがさわら丸」でおよそ25時間。朝10時に東京の竹芝客船ターミナルを出帆し、翌日昼11時30分に父島、二見港に到着する。とにかく長い。この長い航海の間に、面白い工夫があった。

小笠原周辺の海域は、ザトウクジラの繁殖地になっているため、12~5月の繁殖期になると多くのザトウクジラを見ることができる。特に2月はザトウクジラを見やすい季節のようで、おがさわら丸の中にはクジラ目当てに小笠原に行く観光客が大勢いる。

そのためか、乗船1日目の午後に、小笠原で実際にホエールウォッチングのガイドをされている方による、ホエールウォッチングに関する無料のガイダンスが、船内のレストランであった。題して「小笠原でホエールウォッチングを120%楽しむために」。内容は、ザトウクジラの大きさや形などの特徴や生態、ホエールウォッチングに行く際のツアーの選び方、クジラの探し方から写真を撮るコツ、そしてクジラ以外に小笠原の海で見ることのできる動物の紹介まで、幅広く丁寧に解説されていた。




船内で夜を明かし、翌日の午前中、小笠原諸島父島列島の最北端に位置する弟島が霞の中に見えてくる頃、にわかに船のオープンデッキが騒然とする。オープンデッキに上がり、船の左舷側、弟島が見える方向に目をこらしてみると、ザトウクジラの吹き上げる潮が見える。何個体もいるようで、背中を見せながら潮を噴き上げる個体、尾ビレを水面上に出してそのまま水中に潜っていく個体、ときにはジャンプして全身を水面上に現し、そのまま背中から水面にダイブ、大きな水しぶきを上げる個体までさまざま。やっぱりナマで見ると迫力ある、前日のガイダンスの予告もあって、これは盛り上がる。
同じ船に乗った観光客達は、これから小笠原に滞在する3日間、それぞれ思い思いのツアーに参加して、もっと間近でザトウクジラ達を眺めることになる。いきなり間近で見るよりも、ガイダンス→おがさわら丸から遠望→ツアーで間近で見る、こんな、時間をかけてクジラにアプローチすることで、ホエールウォッチングが数倍にも楽しくなるのだろう。



(クジラの写真は遠すぎて撮れなかった・・・)

ブログ開始っ!




とうとう来ました、小笠原!
東京の都心から南に約1000kmに位置し、飛行機はなく、竹芝客船ターミナルから船に揺られて約25時間かかる絶海の孤島。そんな小笠原より、人々の生活や自然について、スナップショットを交えた報告を、これから皆様にお届けしていこうと思います。

スナップショットを撮るツールは、RICOH GR DIGITALと、RICOH Caplio 500G wideの2機種(写真)。GRは、23mm単焦点の普通のデジカメ。この広角を生かして、自然と関わる人々の生活、美しい風景のスナップショットを中心に撮っていきたいと思っています。一方、Caplioは工事現場用のタフな防水カメラ。強風で砂埃の舞う現場や波しぶきを浴びる船の上はもちろん平気、海の中も水深1mまでなら潜れるそうなので、スノーケリングのお供として小笠原の水面下の生きもの達の世界もご紹介できると思います。
私の小笠原滞在期間も特に決まっているわけではないのですが、ここにいる限り続けたいと思っているので、どうぞよろしくお願いします!