2008年3月27日木曜日

ムロアジと島トマト

今日は月に2回のネコ捕獲当番の日。
アカガシラカラスバト繁殖期の12月から3月までの間、島民が持ち回りで繁殖地近くにネコの籠罠を仕掛けて捕獲し、繁殖中のアカガシラカラスバトがネコに襲われるのを防ぐための活動をしている。間違って張本人のアカガシラカラスバトが罠にかからないように、アカガシラカラスバトの活動時間帯の昼間は籠罠を閉じ、アカガシラカラスバトが活動しなくなり、ネコが活発に動き出す夜間に籠罠に餌を仕掛けて開けておく。そのため、夕方の仕掛けと早朝の見回りの1セットが当番になる。

今日の夕方、当番のために記録簿や餌が置いてある倉庫に行くと、前でコウタとセイヤが釣ってきた魚を一生懸命洗っていた。コウタとセイヤは倉庫のすぐ前の宿舎に住む小学生の二人兄弟。たまに一緒に釣りに行ったりバーベキューをしたりと遊ぶことがあって、いつも明るく元気で素直で、絵に描いたようなかわいい兄弟。声をかけてみると、「今日はいっぱい釣れたからあげる、あげていいかどうかお母さんに聞いてくるね~」って走り出した。その矢先、お母さんが家から出てきて承諾を得た模様、たくさん並んでいたムロアジのうちの1匹を袋に入れて渡してくれた。ありがとう。

このムロアジと、ちょっと前に友人からもらった島トマトを使って、今日はムロアジと島トマトのマリネを作った。ムロアジは、三枚におろしたあと、塩とレモン汁とにんにくのみじん切りで作ったタレに浸してしばらく置いておく。島トマトは、品種は内地とそれほど変わらないものだと思ったが、小笠原の日差しを浴びて、甘く濃い味がアフリカのトマトに似ている。このトマトと、スライスしたムロアジを皿に盛って、小笠原の塩、オリーブオイル、バルサミコをちょっとずつ振って完成!
捌かれる直前のムロアジ


ムロアジと島トマトのマリネ

初めての組み合わせだったが、ちょっと青臭いムロアジと甘く味の濃いトマトが絶妙にマッチして、とても美味しかった。そして三枚におろしたアラから取ったダシで作った大根のお吸い物(写真右奥)も旨かった。コウタ、セイヤ、そしてこのムロアジやトマトを作りだす小笠原の自然にありがとう。

2008年3月22日土曜日

おがくず

事務所の看板をつくるために、伐採されて浜辺に転がっていたテリハボクという木の断片を拾ってきた。この木は、木目がきれいで、島内ではよく工芸品や看板につかわれているもの。

まずはこの丸太の断片を、チェーンソーを使ってスライスした。
その時に出たおがくずが手前の袋の中身。
こんな、3枚の板きれをつくるのにこんなにたくさんのおがくずが出るとは・・・。

最近、温暖化対策等で木質ペレット(おがくず等の加工くずを固めた木質の燃料)を利用したストーブや温水器が話題になるのを聞くにつけて、そんなの利用可能な燃料の量なんて高が知れていると思っていた。それが、この3枚のスライスでこんだけの量が出るとは、であれば普通に製材するとき、木造家屋を建築するときに至っては、これとは比較にならないほどのおがくずがでるはず、ということはそれを原料にするペレット燃料の量も相当量の生産が可能なのだろう、という考えに至った。

このスライスした板は、これから乾かして表面を鑿で整えたのち、会社のトレードマークと社名を鑿や彫刻刀で彫りこみ、焼印処理をしてニスをかけ、完成となる予定。道のりは長い。

2008年3月11日火曜日

さかなクン登場!

小笠原くじらフェスタのオープニングイベントが、先週土曜日、公園のお祭り広場で開催された。今の時期は、ザトウクジラが繁殖のために小笠原近海にたくさん集まってくる、そんなクジラたちを見に内地からのお客さんもたくさんやってくる。そんなクジラとお客さんを歓迎してお祝いしよう、というのがこのお祭りの主旨。例年通りの、小笠原太鼓、南洋踊り、小笠原フラ、そして我々スイングブローの島民団体のステージに加えて、今回は特別ゲストのさかなクンが登場した。

この日、いつものおがさわら丸に加えて、不定期のちょっと豪華な観光船、にっぽん丸が父島二見港に入港していて、その添乗の特別ゲストとしてやってきたのが本来の目的、くじらフェスタの主催者がそれに便乗する形でステージを準備した様子。

このさかなクンのさかな教室が大盛況。とにかくさかなクンの早描きのポイントを上手く表現した絵と、膨大な知識に基づいた解説が面白い。そのひとコマ。 小笠原では島寿司によく使われる、サワラという魚がいる。漢字は鰆と書くのだが、これは春が旬で美味しいことに由来している。漢字と読みの語源は全く別、サワラは正面から見るとおなかが細くなっているから、狭腹と書いてサワラと読む、それが読みの所以。島にいる人でもこんなことを知っている人はそうそうおらず、皆で納得。

そしてなんと、さかなクンは学生時代に吹奏楽部でトロンボーンをやっていたということが発覚、我々スイングブローのステージにもゲスト出演で出てもらおうと思っていて、楽器も楽譜も用意して待っていたのだが、さかなクンは我々のステージの前にそそくさと車で宿へと帰ってしまわれた。残念。
余談になるが、さかなクンは、「吹奏楽部」を「水槽学部」と間違えて入部してしまった模様。笑。出典はWikipedia。

スイングブローの面々

2008年3月6日木曜日

現場仕事の合間に

父島で、小笠原固有のカタツムリ達が残っている地域は、軒並み秘境と呼ぶのにふさわしい究極の僻地。仕事では、道なき道を辿って、そんな場所に調査に入る。仕事の合間にふと見渡すと、他ではないような小笠原らしい美しい光景に出合うことがたまにある。そんなとき、不純ながら、この仕事をやっていてよかったと心から思う。

写真は、モモタマナの梢越しに眺めた巽湾。モモタマナの大きくツヤツヤ照る葉っぱがなんとも個性的できれい。

小笠原固有のカタツムリ

アカガシラカラスバトに引き続き、小笠原固有の動物ネタ。

今まで書いたブログを振り返ってみると…、あったあった、去年2月26日にカタツムリネタがある。この記事にあるとおり、小笠原諸島の世界自然遺産登録に当たり、生態系、生物多様性に関しては、小笠原固有のカタツムリが最も重要であるとされている。あのブログを書いた当時は想像もしていなかったのだが、今はこの小笠原固有のカタツムリを守るための調査が仕事の日課になっている。

カタツムリは知ってのとおり一般的に動きはとても遅く、行動範囲もそれほど広くないため、小笠原固有のカタツムリ達も、それなりの住環境が残されていれば比較的よく生き残っている。ところが、小笠原諸島の中で父島だけは他の島々とは全く様子が違う。

父島には、カタマイマイ属という比較的大型のカタツムリが、カタマイマイ、チチジマカタマイマイ、アナカタマイマイ、キノボリカタマイマイの4種が生存している。下の写真はカタマイマイの殻。分厚く質感のあるダークブラウンの殻に、白いストライプが1本、スパッと入っている。一般にイメージするようなヤワいカタツムリの殻とは大分雰囲気が違って、高級感にあふれている。この殻の形や模様は、カタマイマイ属でも種や住んでいる地域によって異なり、ストライプが2本入っていたり、殻の地色が薄緑色だったりと様々。
このカタマイマイ属のカタツムリ達が、ここ最近父島では激減している。その主な元凶として指名手配されているのが、ニューギニアヤリガタリクウズムシという、外来のプラナリアの1種。プラナリアといえば、小中学校の理科の教科書に載っている、切っても切っても分裂して再生してくるという、エイリアンみたいな気味の悪い生命体。ニューギニアヤリガタリクウズムシは、長すぎるから略してニューヤリとしよう、カタツムリを好んで食べるという習性がある。
ニューギニアヤリガタリクウズムシ (ニューヤリ)
ニューヤリは、1990年代になって小笠原諸島でも父島に初めて持ち込まれたとされていて、それ以降、爆発的な勢いで増殖して、今となっては分布が父島全島を飲み込もうとするほどの勢い。ニューヤリが入り込んだ地域では、カタマイマイ属のカタツムリ達はほぼ壊滅状態になっていて、島の南部・東部の海岸沿いにわずかに生息地が残るのみの悲惨な状態に陥っている。

仕事では、このわずかに残されたカタマイマイ属のカタツムリ達の貴重な生息地を守るため、ニューヤリが何かにくっついて運ばれたり、自力の移動によって拡散したりすることを防ぐための対策を練っている。

アカガシラカラスバト同様、この戦いは始まったばかりであるが、敵があまりにも多数で目につかない相手なだけに、どうしたら拡散を止められるのか、頭の痛いところである。

2008年3月4日火曜日

アカガシラカラスバトの保全に向けて

アカガシラカラスバト (野鳥の窓:http://www.phoebastria.com/data/columba/akagasirakarasubato.html より転載)

1か月以上前、1月中旬を振り返っての話。
小笠原諸島には、アカガシラカラスバトという固有のカラスバトの亜種が生息していて、その個体数は推定わずか40~60羽と言われている。このハトを絶滅から救うためにどうしたらよいかという保全活動計画を作るための国際ワークショップが、1月10日~12日の3日間、父島で開催された。

正確にはPHVA(Population and Habitat Variability Analysis:個体群および生息地の変動性分析)ワークショップと呼ばれ、国際自然保護連合(IUCN)から希少動物種保護・増殖の専門家を迎え、それにアカガシラカラスバトの保護・増殖に関係する、できるだけ多くの関係者を巻き込んで、3日間ワークショップ会場に缶詰めになってみんなで計画をつくるというもの。

関係者とは、具体的には、環境省、林野庁、東京都、小笠原村、上野動物園(アカガシラカラスバトの飼育をしている)等の公的機関、獣医さん、地元のNPOのスタッフや地元のツアーガイドの方々等々、総勢100名を超える人たちが集った。やっそは、このワークショップに事務局ボランティアとして、またカタコトの英語を喋れることから、海外から迎える専門家のサポート係として参加させてもらった。

この手法は、日本では他にツシマヤマネコとヤンバルクイナの2種、その他世界各地で採用されていて、多くの成果を上げている。今回のワークショップに参加して、この成功の秘訣を目の当たりにした。

その秘訣とは、様々な形でアカガシラカラスバトの保全に関係する関係者が一堂に会して、3日間で保全計画を作成するという目標を共有して、そのことだけを考えて3日間議論し通すこと、そして希少動物種保護・増殖の実践経験を豊富に持つIUCN専門家の存在。

関係者が一堂に会することで、3日間という期限つきのプレッシャーを共有することで、議論を先送りにせず、次々と片付けていくことができる。議論を進める中で、必ず焦点となるのが、どれほどの数のアカガシラカラスバトを、どのような形で維持すれば絶滅が回避できるのかということ。

そこは専門家の出番、様々なケースを想定して、絶滅確率を算出するコンピューターシミュレーションをその場で走らせて、その場で結果を得る。そしてその結果を反映して更に議論を進めることができる。このシミュレーションは専門家の重要な役割ではあるが、一方で、議事進行を務めるファシリテーターとして、議論を保全活動計画策定という目標に向かって導いていくことも重要な任務。豊富な経験に裏打ちされた、柔軟かつ的確な采配で、100名以上もの大勢の参加者により執り行われる議論を、アカガシラカラスバトの保全活動計画にまとめ上げていく。


ワークショップの議論の成果について解説するフィリップ・ミラー博士

このようにしてつくり上げられた保全活動計画は、今年4月に正式な形で世に出ることになっている。アカガシラカラスバトを後世に亘って守っていく活動はここでスタートを切ったばかり、この計画にもとづいた今後の活動そのものがとても大事になってくる。

今回このワークショップに参加して、世界的に実績を上げている保全計画づくりのプロセスを経験できたことも然ることながら、サポート係として、希少動物種保護・増殖の分野では世界でも第一人者であるような専門家の方々との交流が持てたこと、その素敵な人間性に触れることができたことも大きな収穫だったように思う。