年度末をあふれた仕事のために、3週間ばかり上京して本社に缶詰になっていて、本日、父島に戻りました。
それでネタを切らしているので、去年から僕の所属するNPOヒマラヤ保全協会(ここ最近はすっかり幽霊会員なのですが・・・)の会報に投稿している記事のバックナンバーを掲載させてもらいたいと思います。このコラムでは、僕が協力隊で派遣されて2年間を過ごしたマラウイのマラウイ湖国立公園、ヒマラヤ保全協会のボランティアスタッフで訪れたネパール山奥の村々、そして小笠原の3つの地域を比較して見えてくるものについて、あーだこーだ書いています。長いです。
では、始まりです。
◆◆マラウイ、ネパール、そして小笠原、3つの地域を比較してみえてくるもの◆◆
―第1回 人の生活と自然との結びつき―
美しい自然に囲まれながらも不便極まる3つの地域:アフリカのマラウイ湖国立公園、ネパールの農山村、そして日本の小笠原。本コラムでは、著者が滞在経験のある3つの地域について、ひとつの軸の上に並べて、そして毎回異なった視点から光を当てながら、人と自然とのかかわりについて論じてみたいと思います。第1回の今回は、人の生活と自然との結びつきをテーマにします。
マラウイ湖国立公園は、アフリカ南東部、巨大な淡水湖であるマラウイ湖の南端に位置し、ミオンボと呼ばれる灌木林と湖に囲まれて現地の人々の暮らす村が点在しています。村人の生業は漁業と農業が中心。水揚げされた魚は保存のため燻製にされ、都市に出荷されて多少の現金収入に換えられていますが、農業については、国立公園に囲まれているために猫の額ほどの農地しかなく、生産量は自給に満たない程度。当時電気やガスはなく、調理用と燻製用の燃料は、国立公園の山林から採集してくる薪に頼っていました。

マラウイ湖国立公園
ここから人の生活と自然との結びつきを論じるにあたり、人による管理の手が入らない土地の範囲を「自然」とよび、それに対して、居住地や農地等、常日頃から人による管理の手が入っている土地の範囲を「生活圏」とよぶことにします。
マラウイ湖国立公園に点在する村々では、村人の現金収入は少なく、生活に必要な食糧やエネルギー源の多くを周辺の自然、すなわち湖や国立公園の山林から得る必要があるために、人々の生活の自然への依存度が非常に高い。そのため、生活圏と自然が密接し、人の生活と自然との結びつきが非常に強い傾向があります。

マラウイでは人の生活と自然との結びつきが強い
ネパールの山奥、ヒマラヤ保全協会が植林等のプロジェクトの対象としている村々は、車道の終点から急峻な山道を幾ばくか歩いて行かねばならず、アクセスが非常に悪い。村人の生業は農業が中心。居住地の周囲には棚田や段々畑が広がり、作物は自給目的のものが多い。現金収入といえば、昔の軍役の年金や主人の出稼ぎで得ているものが多くを占め、働いて現金収入を得られるような場所はほとんどありません。

ネパールの山村によく見られる段々畑
農地の周囲には、ヒマラヤ保全協会と村人が20年来活動した成果である雑木林が広がっています。料理や暖をとるのに使う薪、家の建設等に使う材木等々、生活に必要な資源の多くをこの雑木林から得ているようでした。
ここに、先ほどの「生活圏」と「自然」に加えて、人が粗放的に育成、管理する自然としての山林、いわば「二次的自然」という概念が出てきます。ネパールの農山村では生活と自然との間に二次的自然が介在し、人々の生活はこの二次的自然に強く依存しています。

ネパールでは二次的自然への依存が強い
そして小笠原。東京から太平洋上を南におよそ千キロ、航空路はなく、週一便、片道25時間半を要するおがさわら丸が唯一の交通手段。国立公園に囲まれているために、現在生産活動を行っている農地の面積は非常に小さく、食料の自給率は著しく低い。食品のほかエネルギー源のプロパンガスや火力発電用の重油等々、生活に必要な物資のほとんどは千キロの海を越えて運ばれてきます。ここには、人の衣食住を満たすという観点からは、人の生活と自然との結びつきはないに等しい。

小笠原(父島二見湾)

小笠原では人の生活の自然への依存がほとんどない
以上に述べてきた、マラウイ湖国立公園、ネパールの農山村、そして小笠原の3つの地域について、人の生活と自然との結びつきの強さを軸にとり、3つの地域を比べてみると、下図のように表現することができます。