「コンサベーション・インターナショナル」&「生物多様性ホットスポット」でグーグル検索をしてみると、生物多様性ホットスポットのデータベースに行きつく。このマップを見てみると、今やっそが調査している地域は「(インド)西ガーツ地方及びスリランカ生物多様性ホットスポット」に該当する。そして驚いたことに、日本は全土がホットスポットの真っ赤な色で塗りつぶされているではないか。
ここインドの農村に滞在していると、絶滅危惧種や希少種ではないにしろ、身近な昆虫や鳥の種類の多さに驚かされる。集落には巨大なマンゴーやジャックフルーツの古木の森に埋もれるように家々が点在して、特に古い木々には蘭やシダ植物が大量に着生している。今は雨季のはじまり、蘭がきれいな花を咲かせている。ここにはいろいろなチョウやハチが飛び交い、水がたまり始めた水田上空にはトンボが交尾飛行をしている。水路に目を向けるとメダカみたいなちいさな魚たちが群れ、その上を時たま、きれいなルビー色したカワセミがサッと横切る。そんな中で、男たちが牛を操って田をおこし、おこされたボコボコの土のかたまりを女たちが木の棒で丁寧にならしている。夜になると真っ暗な集落の中を飛び交うホタルの光がきれい。ここには、人びとの日々の営みに息づく自然がある。
いつもごはんを頂いている農家で話をしていると、おばちゃんの二人の息子のうち、長男は州都ムンバイで働いていて、二男は最寄りの街デヴルークでコンピューターサイエンスを勉強中とのこと。この子も近い将来は都会に出て働くことになるのだろう。この様子だと、このうちの後継ぎはいない。調査地の村々の人口データに目を向けてみると、多くの村で男性の数が女性に比べると明らかに少ない。極端な村では半数近く。皆、現金収入を求めて都会に出て行ってしまう。生活のためには止むを得ないのだろうけれど、その向かう先は農村の高齢・過疎化。数十年前の日本と同じ道を歩んでいる。
これから先数十年で、この農村の生活は大きな変化を迎えることになるのだろう。農家の高齢化と労働力不足、そして市場経済の拡大が農業の効率化を呼ぶと、昔から人びとの生活とともにあった自然も変化を余儀なくされる。日本で野生のトキが絶滅していったように、昔はどこにでもいたメダカやドジョウ、コウノトリが絶滅の危機に瀕しているように、インドのこの農村でも、今はどこにでもいる虫や鳥たちの運命も、これから先安泰とはいえない。そして何より、ここの素朴であたたかい人たちの生活や、美しい昔ながらの農村風景が失われることが、よそ者ながらもとても惜しい。
現地調査から一時的にNGOの事務所のある都会に戻って、ネットゲームに熱中する若者に紛れてネットカフェでブログを更新しながら、晩御飯にカレー風味のインスタントラーメンを食べながら、農村の美しい風景やおばちゃんのおいしいご飯を振り返って、Development、発展、の意味を問い質していた。